Mr. Aska Warabe



  世界一すてきな初夢を
   絵本作家・飛鳥童氏インタビュー 

  もう一度眠りなおして続きを見たいと思った子供の頃の夢。
  ハッとするほど鮮やかな色彩で緻密に描写された
  不思議な飛鳥童の世界は、私たちに
  自然界と、そこから広がる無限の想像力の美しさを
  思い起こさせる。彼の絵のような初夢を見ることができたなら
  すばらしい1年が待っているにちがいない。

       

氷山ルリの大航海

 飛鳥(あすか)さんの最近の作品『氷山ルリの大航海』の英語版は、昨年末にカナダで発売されたばかりだ。北極の氷山「ルリ」が「南の果ての氷に会いたい」と南極へ大航海する話は、高円宮妃久子さまが作られた。ルリはさまざまな動物や自然との出会いを通して地球を知り、成長していく。

「北極から南極まで、海の色は5段階あるって言われたんです。それを描かなくちゃいけなかったんですよ」と飛鳥さん。屈託のない笑い方、率直で楽しげな語り口。気取らない人柄がそのまま作品に反映されていることを思わせる。

 一昨年夏、『氷山ルリの大航海』制作のために3週間の北極圏取材旅行をした。

 「船の上で他に何もすることがないですから、たっぷり自然観察ができたんです。これでもか、これでもかというほど自然を見せつけられたんですが、最高に感動したのは、やはりオーロラですね。貨物船に乗っている他の人たちは見慣れていますから反応しないんですが、僕は一人ではしゃいじゃいました。周りに誰もいませんから、ウワーと大声を出してね」

 大変だったのは最後の追い込みが始まった昨年の春。

 「締め切りが1カ月早くなってしまったんです。眠る時間もなくなってしまいました。そして最後に全部完成させて、やれやれと思っていたところにチェックが入りました。(絵本の中の熱帯雨林のルリコンゴウインコを指して)僕が図鑑で見たときには一羽しかいなかったものですから、最初はこの鳥は一羽しか描かなかったんです。そしたら妃殿下は非常にいい目をされていて『この鳥はいつもつがいで飛ぶの』のおっしゃいまして、描き足したんですよ」

 生物界は実に多様である。『氷山ルリの大航海』は、生物学的に徹底的に正しい描写をめざした。

 『アマゾンの森林には、一万種もの蝶々がいるんです。それも、ルリが漂流している時に飛んでいる蝶々を選ばなくてはいけないし、しかも海沿いから見ているわけですから、内陸に住んでいる蝶々を描いてはいけない」

 『氷山ルリの大航海』には、地球の美しさとそれを支える生態系が、その継続を願う人々の想像・創造力によって見事に描かれている。心に新鮮な息吹をもたらしてくれる作品だ。

地平線上には何もない

 1970年代に拠点を置いていたヨーロッパよりも、歴史が新しく多様性に富んだ、よりオープンな社会に興味があって、カナダ移住を考え始めたのがトロントとの縁の始まり。

 「トロントへは、僕の絵のスポンサーだったロンドンのギャラリーの支店があるということで、そこを頼りに紹介状を持ってきたんです。ところがそのギャラリー、行ってみたら閉鎖されていたんですよ!途方に暮れました(笑)」

 それが住み始めて、今年で20年になる。

 「最初は打ちのめされたんですよ。描くものがなくて。地平線でしょ。何もない。極端に言うと、幼児が紙の上にピーとセンを描く、そんな感じでしょ。最初は筆をもてなくなったんです。なんでこんなところに来たのか、と思いました」

 しかし、この何もなさが一転して、彼の想像力を今の方向にいざなうことになる。

 「氷点下20度とか25度とかいう日、ハイパークに行ったらアイススケートをしている子供たちがいたんです。子供たちの口から白い息が伸びていて尾を引いている。僕も息を吐いてみたら、寒い日にはずーっと長く息が広がって伸びる。この息がずーっと空に広がって雲になり、自分の吐いている息も一部になるのかなあ、と思った。それで、地上で生活している人たちの会話、笑い声や泣き声とかも含めてあの雲になるのかな、というイメージが出てきたんです。その時、雲の動物のイメージが湧いた。それ以来、カナダの雄大な空のスペースが気にならなくなりました」

 インスピレーションは、目の前にある風景や自然から始まることが多い。

 「ほとんど僕は現実にある場所を描いています。われわれの生活にある場所なんです」

 現実の世界が、あざやかなイマジネーションに彩られ、作品となる。

身近なところですてきなこと

 さまざまな肌色の人が描かれる作品にも反映されているようにカナダの人種のモザイク社会が好きで、日本の「抑え型」と対照的なカナダの「引き伸ばし型」教育を評価する。

 1995年、日本の伊勢丹で展覧会をしたのが読売新聞の第一面コラムの記事になり、遠くからも記事を読んだ母子が数組、飛鳥さんに会いに来たことがあった。

 「お母さんが、『握手してもらいなさい。エネルギーをもらいなさい』って、子供の肩押して言うんですよ。僕、教祖じゃないですからね、エネルギーなんてあげられないですよね!でも、日本の親たちは(問題の多い今の社会において)せっぱ詰まっているのかな、わらをもつかみたい気持ちなのかな」と思いました。

 一昨年、日本各地で子供や大人を対象にカナダの異文化共存社会やアートについて話した。それに寄せた小学校6年生の感想文(原文のまま)

 「自分のあの絵に入りこめれたらいいな」

 「私も冬に空をながめながらつぎつぎとおちてくる雪を見つめていたり、夏に海の夕日をながめたり、春にどこまでもつづく菜の花畑に見入ったり、そういうすてきなことはいっぱい体験している。だけどたいてい身近なところですてきなことはほとんどない。だけど、飛鳥さんの話を聞いてあらためて、自然のすばらしさ、尊大さを教えてもらった」

 飛鳥さんの作品は、見るものに―子供たちにも、そして大人たちにもきっと―「身近なところですてきなこと」を提供してくれる●

(『ニューカナディアン』紙、1999年1月1日号特集。一部変更)

飛鳥童(あすか・わらべ)1944年、香川県生まれ。1979年カナダに移住。ご夫人と3人の子供の家族。作品がユニセフ・グリーティング・カードに採用されたり、トロント出版文化賞、ライプチヒ国際図書展栄誉賞を受賞するなど、国際的に活躍するアーティストである。『氷山ルリの大航海』は、世界各地で翻訳・出版されている。





「文化」の目次に戻る

HOME

E-mail:nhirose@art-words.com


(c) 2008 Naoko. No parts may be reproduced without permission.